◇とある親子の交換日記

これは息子であるAustinと、母である私、Katieの交換日記。私たち親子は今は二人で暮らしているけれど幸せな日々を送っているわ。こんな日々が日々がこれからいつまでも続いてくれることを母として、毎日欠かさず神様にお祈りをしているの。

私にとって息子であるAustinは何にも代えがたい大切なもの。彼が生まれてくる前、一度流産を経験し、その後、何年も続いた不妊治療の末に、排卵誘発剤まで使って、やっとこの世に生まれてきた子供。初めて親になった私たちは共に40歳を過ぎていて、本当にこの子を育てられるのかしら、と不安に思うことも有ったけど、それにも増して新しくこの世に誕生した命が尊く、嬉しくそして、愛おしくてたまらなかったわ。

父親であるChristopherはAustinが高校に進学するタイミングで別居してしまったけれども、とにかくこれからもAustinには変わらない愛情を降り注いでいくわ。

彼は現在は大学生。隣町のカレッジスクールまで毎日忙しく通学している。ガールフレンドがまだ見つかっていないのが残念だけど、目標としている弁護士になれるように頑張ってね。

◆ママへのお願い

親子で交換日記なんて、なんだか恥ずかしいけど、普段、会話をする機会も減ってきたから、ちょうど良いアイデアだね。

早速なんだけど、ママに一つ、お願いがあるんだ。

お願いというのは父さん、Christopherのことなんだ。ママと父さんは僕を生んでくれるために大変な苦労をしてくれたことはジェーン叔母さんからも聞いていたこと。今、カレッジに通って弁護士を目指して充実した日々を送れていることに心から感謝しているよ。

実は来週、父さんの60歳の誕生日が来るよね。60歳と言えば、還暦のお祝いだし、息子としては父親の還暦のお祝いに久しぶりに会って「おめでとう」と言ってあげたいと思っている。もちろん、Christopherが4年前に家を出ていってから顔も見てないけど、そう遠くない町に住んでいるし、何よりも僕が生まれてから高校生に上がるまでの間、父親としてたくさんの愛情を注いでくれたことに感謝している。何故、今、ママとChristopherが別々に暮らしているのかは分からないけれども、Christopherは僕にとっては大切な父親。もちろんママのことも愛しているけど、今回、Christopherの還暦の誕生日に、僕は会いに行っても良いだろうか?

◇愛するAustinへ

Christopherに会いに行くこと、もちろんOKよ。

別々に暮らしているけれども、あなたにとって彼が父親であることは変わらないわ。むしろ、父親の還暦にこれまでの感謝を伝える息子にあなたが育ってくれたことを誇りに思うくらいよ。

Christopherとの別居の理由は、実はママも全てを理解したわけじゃないの。あの人が家を出て行って離れ離れに暮らすようになっても、私たちの生活費やあなたの教育費用もきちんと送ってくれている。Christopherは今でも立派な父親よ。

そうだ、Christopherに届けてくれない?彼が大好きだったママお手製のピクルスを。あの人がピクルスをつまみながらビールを飲んで、フットボールを観ていた光景が懐かしいわ。

◆ありがとう!

ママへ。

Christopherに会いに行くことを認めてくれてありがとう。僕には別居中の理由はよく分からないけど、ママがChristopherのことを憎んでいないことがわかってよかった。

ママが作ったピクルスもちゃんと届けるから。明後日の朝にはChristopherが住む町に出発するから、それまでに用意をお願いするよ。

還暦のプレゼント

◆還暦のお祝いに行って来た。

Christopherの誕生日に会って話をしてきた。なんだか少し混乱していて。文章にまとめて自分でも頭の中を整理してみようと思う。

父さんを訪ねた時、いつもの笑顔で迎えてくれた。

「やぁ、Austinじゃないか。しばらく合わないうちに大人の顔つきになったな!元気にしてるか?」

「父さん、久しぶり。元気にしてたよ。父さんも元気そうで何よりだよ。実は今日は父さんの還暦のお祝いを言いたくて。突然だけど来てみたんだ。」

「Austin、本当にありがとう。本当に嬉しいよ。自慢の息子だよ。」

「父さん、今は離れて暮らしているけども、いつも父さんに感謝しているよ。還暦おめでとう!僕の父さんは世界で一人だけだよ!」

そんな、会話を交わしながら、一瞬、父さんの顔が曇った表情を見せたことに、僕はこのときは気付いていなかったよ。

その後は久しぶりに男同士でカレッジの勉強のこと、スポーツのこと、そしてママには隠しているガールフレンドについて久しぶりに何でも話せた気がしたよ。一通り話が済んでから、ママからのピクルスの瓶詰めをバックパックから取り出して、Christopher父さんに忘れずに渡したよ。

父さんは早速、皿にピクルスを出し、2つ揃わなきゃ意味が無いと言わんばかりに冷蔵庫からビールを取り出してきてグラスに注いだ。

「なあ、Austin… 母さんは、Katieはどうしている?元気かい?」

そんな会話から始まった、母さんの話を父さんはひとつひとつ噛み締めるように聞き入っていたよ。ピクルスをつまみにビールを飲みながら。この時、父さんにとっては母さんが作ったピクルスと、母さんの話題がとても懐かしく感じられたのかも知れない。

そして父さんは何か腹をくくったかのような表情で、口を開いた。これまでやさしかった父さんの目は、この時は鋭く変化し、そして一種の悲しみを潜めていたんだ。

「Austin、父さんの話をよく聞いてくれ。これは、君の人生を大きく揺り動かしてしまうかもしれない。」

あとで聞いた話では父さんは、僕にこの話を一生するつもりは無かったらしい。ただ、自分が還暦を迎え、プレゼントを抱え素直に祝福に来た僕に対しては、どうしてもウソをついたままで居られなかったらしい。

「母さんと私は本当に君に会いたかったんだ。僕ら夫婦はKatieの流産もあり、それから5年ほど子供には恵まれなかった。」

「ある日、Katieの定期検査に付き添ったときに、ふいに医者の先生に言われたのさ。念のため旦那さんも検査をしてみませんか、と。」

父さんは僕の生い立ちについて語り始めた。
それは僕が母さんや、ジェーンおばさんから聞いていた内容よりも細かく、そして全ての疑問について核心をついた内容だった。

「ほんの軽い気持ちで検査を受けたら、実は不妊の原因は父さんの方に、つまり自分自身にもあったことが分かった。」

さっきまでは明るく会話をしていた父さんは、とても神妙の面持ちで会話を続けた。

「Katieとどれだけ話しあっただろう。二人の希望だった子供はもう可能性としてはゼロという診断だった。」

「そこで私が彼女に提案したんだよ。排卵誘発剤と精子バンクの使用をね。」

父さんは話を続けたが、僕は頭の中がパニックになってそれからの会話の詳細は余り覚えていない。ただ、はっきり分かったのはChristopher父さんは、遺伝子学的な父親ではないこと。それでも父さんは僕の父さんだし、今でもそう思っている。僕が小さい時だって本当の親子として育ててくれた。そんな思いが溢れ出て、尋ねてみたんだ。

「何で、家を出て行ったりしたのさ、父さん?」

父は少し困った表情を浮かべながら、言葉を選びつつ慎重に答えてくれた。

「もちろん、私はAustinを本当の息子だと今でも思っているよ。それに、Katieに子供を望むのなら、とあんな提案をした以上は生まれてきた子供、そして家庭に対する責任があると思っている。」

「ただ、君が高校入学を控え大人になり始めたころ、少し困った事態になった。それは君が私には全く似ていなかったこと。」

「私は理由を知り納得はしていたが、周囲がどう思うかを考えると、一緒に暮らすことは賢明でないと思ったんだ。もちろん、このことはKatieも分かっていないはずさ」

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    私Katieと不妊治療でやっと授かった息子Austinの日常を綴ったブログです。子育ての大変さの中にも、日に日に成長していくAustinを見ていると疲れがぶっ飛びます。父親のChristopherとは別居中。
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